女流詩人でいえば、新川和江には、そうとうお世話になっているし、彼女の華やかな作品も大好きだ。しかし、ここに石垣りんという詩人がいたことを忘れてはならない。 およそ、10年前には、すでにこの世のひとではない。 中学校あたりの国語の教科書にも載っていたかも知れない。 彼女には「表札」というディープな代表作がある。 「表札」 自分の住むところには 自分で表札を出すにかぎる。 自分の寝泊りする場所に 他人がかけてくれる表札は いつもろくなことがない。 病院へ入院したら 病室の名札には石垣りん様と 様が付いた。 旅館に泊まっても 部屋の外に名前は出ないが やがて焼き場の鑵にはいると とじた扉の上に 石垣りん殿と札が下がるだろう そのとき私がこばめるのか? 様も 殿も 付いてはいけない、 自分の住む所には 自分の手で表札をかけるに限る。 精神の在り場所も ハタから表札をかけられてはならない 石垣りん