「本当はもっと実験室にいたい。デスクに座る仕事が増えても変わらないですね」と語る玉尾さん(埼玉県和光市の理化学研究所和光研究所で)=三輪洋子撮影 赤茶色のニッケル化合物が入ったフラスコに反応剤を注ぐと、黄色い溶液が熱を発しながら濁り出してきた。それまで不可能とされてきた別々の有機化合物が結びつく反応だ。化学界の常識を覆した瞬間だった。 有機合成化学の革新者・玉尾皓平らが1972年に発見したこの反応は、広く「クロスカップリング」と呼ばれ、現在、携帯電話やテレビのディスプレーに利用される有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)の開発や創薬などに広く応用される。 「Chemistry is all around us(私たちの周りはすべて化学物質)」。化学を論じる時、玉尾は必ず、そう切り出す。 医薬品やプラスチック、電子機器の部品など、我々の身の回りの物は、ほとんどが分子と分子を結合したり分離した