放射線の標的は本当にDNAだけか?-ゲノム不安定性とバイスタンダー効果- 京都大学原子炉実験所放射線生命科学研究部門 渡邉正己 がんは多段階の形質変化が積み重なって起きることが臨床的な観察から古くから知られていた。そして段階的に進む形質変化のそれぞれに密接に関係する遺伝子が存在し,その遺伝子に突然変異が起きることが発がんの第一歩であり、アクセルであると考えられてきた。この考え方は、“発がんの突然変異説"で あり、現在も最も有力な発がんの仮説である。しかし、依然としてこの仮説は実証されておらず発がんの全容を見渡すという視点でみると何らかの矛盾を伴っていることが多い。多くの矛盾を指摘することが出来るが、30年前に指摘しながら依然として解決されていない疑問は 、発がん頻度が個々の体細胞突然変異頻度より遥かに大きいということにある。 その後、長年に渡る細胞がん化研究で、私は、細胞はがん化しない