<台風が暗喩する非日常は、10代半ばの少年少女にとって日常だ。日常が非日常を覆い隠す直前の数日を映画は鮮やかに描く> 長谷川和彦監督の伝説的な映画『太陽を盗んだ男』にワンカットだけ出演したことは、昨年の本誌1月12日号に書いた。待機時間を入れても午前中いっぱいくらいの現場体験だったけれど、僕を呼んだ制作進行(当時)の黒沢清から紹介されたチーフ助監督が、何やかやと気を遣ってくれたことを覚えている。 小柄でひげ面。どちらかといえば寡黙。でも細やか。ディレクターズチェアにどっかりと座った長谷川監督がイメージどおり豪放磊落(らいらく)な演出をしていたから、この業界にもいろんなタイプがいるんだな、と思ったことも記憶にある。 そのチーフ助監督は、翌年の1980年に『翔んだカップル』で監督デビューを果たす。相米慎二だ。さらに81年には『セーラー服と機関銃』で興行的な成功を収め、83年の『魚影の群れ』を挟