第4章 混乱による被害の拡大 第1節 流言蜚語と都市 1 「流言」対象化の困難 大震災下での流言は、いつどこから発生し、誰を通じて、どのように伝わっていったのか。 事実の基本に属する問いではあるが、正確に押さえるのは大変に難しい。伝達プロセスに関 係した主体を丹念にたどり、時点や場所などを確定する、遡及的で広範囲にわたる調査検証が 必要だからである。しかし、関東大地震という災害の情報空間を満たしていた数多くの流言に ついて、その一つ一つの伝達プロセスを徹底して究明することは不可能に近い。その理由の一 つに、まず「流言」という現象それ自体の捉えにくさと記録のされにくさがある。 (1) 流言の気づきにくさ 第一に、流言は自覚されにくく、また、隠蔽されやすい。すなわち、流言であることは、事 後的に明らかになる場合が多く、伝達プロセスに巻き込まれた当事者にしても、伝えたことに あまり触れたがら