私たちの体にも植物にも炭素はたくさん含まれています。この炭素という元素、そもそもどのようにしてつくられたのでしょうか。その解明のために、スーパーコンピュータ「富岳」で原子核の構造を計算したのが阿部喬協力研究員(以下、研究員)らです。研究開始から10年余り、これまでの理論物理の常識を覆す発見がありました。 誰も答えにたどりつけなかった難題 138億年前にビッグバンが起きたとき、宇宙に存在した元素は、ほぼ、水素とヘリウムだけ。核子(陽子と中性子)でできた原子核が衝突を繰り返し、核子数の多い元素がつくられてきた。英国の天文学者フレッド・ホイルは核子が12個の炭素について「核子が4個のヘリウムが3個合体する過程で生じる不安定状態があるはず」と1954年に予言した。後に、「ホイル状態」と呼ばれるようになったが、その構造は謎だった。 図1 炭素の原子核の成り立ち 陽子2個と中性子2個のヘリウムの原子核