著: 田中鈴 京成立石は懐かしい音がした。 改札を出てまっすぐ階段を下りると、商店街が現れてカーンカーンカーンカーンとけたたましく鳴る踏切が出迎えた。走り去る電車を追いかけるように今度はカンカンカンカンと倍速で鳴り始めると、反対側の電車が通り過ぎていく。 商店街は、子どもを後ろに乗せたたくさんの自転車が行き交っていて、お店の人とお客さんの声も聞こえる。昼から飲んでいたのだろう酔っぱらった大人たちの叫び声もアーケード内でよく響く。 そんな京成立石。2028年には高層マンションが建つらしい。 京成立石が苦手だった 京成立石に越してきたのは、21歳のころ。高校を卒業後、「3年で辞める」と決心して入社した食品販売の仕事をぴったり3年で辞めて、もう私は自由だった。 親元を離れて一人暮らしをしようか、どこか海外にでも行こうか。いっそのこと、どこか遠くで生活してみるのはどうか、と考えてから、職も決めずに