ところが、同時通訳稼業に就いてサイトラ、すなわち「Sight tranlation(黙読通訳)」をするようになって、この考えがコペルニクス的転回をとげた。 サイトラとは、スピーカーが文章を読み上げるような場合、その原文テキストを事前に入手して、目は文章を追い耳はスピーカーの発言を確認しながら訳出していくやり方のことである。(中略) このサイトラを何度もやっているうちに、日本語のテキストからロシア語へサイトラする方が、その逆よりはるかに楽なことに気づいた。 (中略) 表音文字だけの英語やロシア語のテキスト、あるいは漢字のみの中国語テキストと違って、日本語テキストは基本的には意味の中心を成す語根に当たる部分が漢字で、意味と意味の関係を表す部分がかなで表されるため、一瞬にして文章全体を目で捉えることが可能なのだ。(中略) ……黙読する限り、日本語の方が(ロシア語より)圧倒的に速く読める。わたしの