「酒母」の温度に気を配る鈴木大介さん=16日、福島県南会津町、相場郁朗撮影 津波で集落が全壊し、原発事故で立ち入り禁止が続く福島県浪江町の請戸地区にあった酒造店が立ち上がった。店は全壊し、酒蔵もこの冬に仕込んだ酒も失ったが、試験場に預けていた酵母が残っていた。専務で杜氏(とうじ)の鈴木大介さん(38)はその酵母で、新たな酒造りを始めた。 「日本で一番海に近い酒蔵」と自認する鈴木酒造店は江戸末期、天保年間の創業。敷地に沿って高さ3メートルほどの堤があり、その向こうに太平洋が広がる。酒は「磐城壽(いわきことぶき)」。地区は町で一番の漁港で、酒は大漁になると船主に贈られた。漁師は漁の出来を「酒になったが?」とあいさつする風土だった。 3月11日。冬の仕込み作業を終えて、道具を清める日だった。地震による津波で、創業以前に建てられた母屋も貯蔵タンクも在庫の酒も、すべて流されていった。その後、原