「神が創った」と言われるボードゲームがある。 9×9マスの盤上で、兵士や兵器に見立てた40枚の駒を用いた戦略ゲーム。「将棋」である。 想定局面は10の220乗。そんな小宇宙で縦横無尽に知略をめぐらせる棋士たちは、人類の叡智の象徴として尊敬を集めてきた。 最強棋士の称号「名人」誕生から400年。悠久の歴史を刻んできた将棋界に、試練の時が訪れた。 2013年3月、人類とコンピュータの将棋対決「電王戦」。現役のプロ棋士が、史上初めてコンピュータに敗れた。 コンピュータの名は「Ponanza(ポナンザ)」。のちに佐藤天彦名人を破り、史上最強と讃えられた将棋AIだ。 「この国の情報科学としては偉大な一歩だと思っています」 対局後にこう語ったのは、山本一成。ポナンザを生み出した若きプログラマーだった。 歴史的対局から5年、32歳になった山本は、はにかみながら語る。 「私は、人類をやっつけようと思ってポ