※本稿には映画『犬王』本編の内容に大きく触れる記述が含まれますのでご注意ください。 ジャンルを変えてしまう人物は謎に満ちていることが少なくない。アーティストの裏側をインターネットからSNS、動画サイトで溢れる情報から推測できてしまう現代と、情報が限られていた昔は違う。謎は守られ、謎が芸事の評価に繋がった。謎によって異質さが生まれ、異質さによって既成のジャンルを書き換えていったのだから。 まさしく『犬王』とはそんな謎の人物についての物語である。古川日出男の原作『平家物語 犬王の巻』を元に、猿楽能(現代の能楽)で革新的な舞を見せた能楽師・犬王の生涯を描く。湯浅政明監督らしくただの歴史劇ではなく、なんとロックオペラとして、革命的な人物を描いてみせる。 しかし実際の映画を観るとひっかかりを覚えた。日本の伝統芸能となった能楽をロックやダンスで描く奇策は湯浅監督ならではだし、犬王の異様さを表現するのに