たかしの夏 ある夜、たかしは神社に向かっていた。 神社の参道へと続く商店街の両端には出店が並んでおり、イカ焼きの甘いタレの匂いが胃袋を刺激してくる。 どこかで鳴り響く太鼓の音は行き交う人々のお祭り気分を盛り上げている。 「結局、いつもと同じ夏か。」 そう呟きながら歩く。 神社に特に用はない。 「祭りの日に家にずっといるのは寂しい」という理由だけでふらっと神社まで歩いて帰ってくるのを毎年繰り返していた。 何も買わずに神社に行って、何も買わずに帰ってくる。 本当に毎年それだけだった。 しかし、この年は違った。 「チョコバナナクレープ一つ」 足を止めてクレープを買ったのだ。 たかしは高校2年になったこの春にバイトを始めており、お小遣いにも余裕があった。 たかしはクレープを一口かじる。 クレープの甘い香りがバイト先のアイツの事を思い出させて複雑な気持ちだ。 「本当は一緒に来るつもりだったのになあ…