ゲーテの『色彩論』 ©Verlag Freies Geistesleben, Stuttgart 2003 色相環。隣り合う色の変化は等分で、反対側が補色になるようにつくられている。 「眼の人」。そう呼ばれた文豪がいる。彼は文学の手法を、絵画や彫刻から得ようとして熱心に創作に励んだ。しかしやがて自分に絵画や彫刻の才能はないと思うに至り、それから後は「見ること」によって造形芸術の美を追求したのである。 彼の名はゲーテ。戯曲『ファウスト』を書いたことでも知られる文豪であるが、同時に詩人、哲学者、そして自然科学者でもあった。意外なことに、ゲーテが自身の著作の中で最も重要だと考えていたのは『ファウスト』ではない。1810年に発表した『色彩論』である。 近代科学の光と色彩の研究は、ニュートンによって始まった。1666年、ニュートンはプリズムを使って、白色光とスペクトルで分けられた色の関係を理解した。