高氏もこれまでに女性の体を知らないのではなかった。 多分に未開な下野国《しもつけ》地方では、 上下共に楽しみといえば 自然飲み食いか男女の関係にかぎられている。 筑波の歌垣《うたがき》に似た上代の遺風が 今なお祭りの晩には行われるほどだった。 早熟の風も、ひとり高氏だけにあったのではない。 けれど高氏の身分ではそういう面にはしごく不便であった。 だから彼の早熟な性の穂に奇縁の蝶々がとまったのも わずか二度ほどな前例しかない。 いちどは歌垣のやみまつりを見物にゆき、 どこのたれとも得しれぬ年上の山家妻に引かれて 宮の木暗《こくら》がりで契《ちぎ》ッたことと。 また、も一つの体験は、 御厨《みくりや》ノ牧《まき》へ遠乗りに行った麦秋の真昼であった。 馬屋の干しワラの中で、 つい牧長《まきおさ》の小むすめと陽炎《かげろう》みたい に戯《たわむ》れ睦《むつ》んだことがある。 ——そして、前の件は知
![【私本太平記39 第1巻 藤夜叉⑤】彼はそのまま廊の闇をどすどす歩いて、燃えやまぬその五体を、大庭の夜気に立って冷やした。城の大庭は夜がすみだった。すぐ真上の伊吹山すら影もない。どこかには月がある。 - 源氏物語&古典🪷〜笑う門には福来る🌸少納言日記🌸](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/4d807a4ac3054ab3644b22ef0102229ce0888131/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fcdn-ak.f.st-hatena.com%2Fimages%2Ffotolife%2Fs%2Fsyounagon%2F20240714%2F20240714163756.png)