1.差別を権力に変えた男 以前、「田中角栄入門」を連載していた頃、ひとりの気になる政治家がいた。野中広務という男である。部落出身らしい彼が、57歳という年齢で国会議員になって、あっという間に権力の階段をかけ登った、その不思議に引かれたのである。 最近、私のこの疑問を解決してくれる本にであった。魚住昭さんが書いた「野中広務、差別と権力」(講談社)がそれだ。これを読むと、田中角栄以後の政局がよくわかる。野中広務が小沢一朗と張り合って、どのように彼の野望を打ち砕いたか。そして野中自身が、いかに日本の政局で主導権を握り、ついには失脚して権力を小泉に渡す羽目になったか。 そのなまなましい政治ドラマを読みながら、それでも不快感はなく、むしろある種の感動を覚えたのは、底辺からはい上がり、そして転落した彼に、もののあわれにも似た同情と共感を覚えたからだろう。田中角栄にも感じられるような、辛酸をなめ苦労