29 再考・戦後の日本近代史認識 ―帝国日本の戦争と植民地支配をめぐって― 黒沢 文貴 1 歴史認識の分裂か、多様な歴史認識の共存か 今日にまでいたる戦後の日本近代史認識は、一様ではない。とりわけ太平洋戦争もしく は昭和戦前期(以下では、昭和史とも表記する)についての歴史的事実と解釈とをめぐり、 異なる歴史認識が存在することが、戦後の日本近代史認識における大きな特徴のひとつで ある。それは、歴史認識の分裂や対立ともいえるが、見方を変えれば、「多様な歴史認識 や戦争観の共存・競合」であり、日本においてはそうした異なる認識の共存が「保障」さ れているということでもある1 。 そもそも歴史認識といっても、さまざまなレベルのものが存在する。よく指摘されるのは つぎの三つ、すなわち個人の体験や記憶を主とするレベル、国家・社会に共有されているレ ベル、そして学術的レベルの三つである2 。ただし歴史的