パラダイム論の真実 タイトルからは想像しにくいが、原題は『トーマス・クーン』、すなわちパラダイム論を提唱した科学史家に対する偶像破壊の書である。 クーンは、科学は連続的に進歩するという論理実証主義的な科学観を批判し、科学はパラダイム転換を通じて非連続的に発展するという「科学革命論」を提起した。主著『科学革命の構造』は1960年代末期の政治の季節の中で熱狂的に迎え入れられ、今や20世紀の古典として揺るぎない地位を占めている。 それに対してフラーは、この「聖典化」された書を「冷戦時代の典型的な文書」と断じてはばからない。その理由はクーンの経歴にある。 クーンを物理学から科学史の道へ引き入れたのは、ハーヴァード大学学長を長く務め、原爆開発の推進者でもあったジェームズ・コナントであった。彼は大学の一般教育カリキュラムに科学史を導入し、その講師にクーンを推挙したのである。 コナントは二つの世界大戦と