「僕らは自分たちを自転車メーカーとは思ってません」。目の前の男性はそう言って笑みを浮かべる。思わず「え?」と聞き返した私に、彼はこう続けた。「これまで自転車業界の常識から外れることをたくさんしてきましたから」 昭和の面影が色濃く残る東京・谷中。築300年を超える酒屋をリフォームした店の前には、色鮮やかな自転車がずらりと並ぶ。ここはサイクルメーカー「トーキョーバイク」の本店。発言主は同社代表の金井一郎さんだ。 2002年の発売以来、モダンでスタイリッシュなシティーバイクとして国内外で人気を集めてきたトーキョーバイク。同社の足跡を振り返ると、意外な戦略が光る。 最初に注目を集めたのは発売初期。オッシュマンズや東急ハンズといった自転車専門店以外に販路を見いだし、口コミで人気を広げていった。その後も、直営店で音楽や落語のイベントを開くなど、サイクルメーカーらしからぬことをどんどん仕掛けていく。中で