マンガ喫茶でバイトしていたことがある。あの仕事はよかった。すばらしく暇だった。何をするでもなく一人でカウンターに立っていることが多かった。「労働」と「ぼんやり」の境界線が溶けてゆくのを感じた。 想像がつくと思うが、マンガ喫茶では、客は受付をすますと、みんな勝手にマンガを読みはじめる。もはや店員は必要ない。食事を頼むときくらいだ。それに食事といっても、私の働いていた店は冷凍ピラフや冷凍チャーハン、それに冷凍のタコ焼きを出すだけだった。どれもレンジでチンするだけである。 店のマニュアルには、「レンジのチンの音は絶対に鳴らさないようにしろ」と書いてあった。客に聞こえるとイメージがよくないからだろう。これはいま思い出すと笑う。そりゃ客だって、バックヤードで三つ星シェフがチャーハン炒めてくれてるとは思ってないだろうが、それでも向こうから「チン!」という音がきこえて、そのあと店員がチャーハンを持ってく