・・・(前略)いよいよ熱海の水口園という宿に集まり『七人の侍』のシナリオに取りかかることになる。小国英雄も後から加わった。 この時、橋本さん(注:脚本家の橋本忍氏)は、黒澤さんが机上に置いた10冊ぐらいの大学ノートを開いて見て肝をツブしたのである。彼はすでに登場人物のひとりひとりについて克明なメモをノートにぎっしり書いてきているではないか。例えば、勘兵衛について、年齢、人柄、経歴などが箇条書きになっており、勘兵衛の下に志村、とあった。黒澤さんは始め、志村喬以外の俳優は考えていなかった。三船敏郎さえ決まっていなかった。俳優を頭において書くとそのイメージに固まってしまう、と言う。(後略)