四十すぎの未亡人の主人公が、芸者置屋の女中となって働くという短めの長編小説。 冒頭からこれでもかというくらい、常に何もかもが二重性を帯びて現れてくる。 人は皆、口で言うことと本音を使い分けるし、声色も使い分けるし、猫や子供まで腹黒く、騙し騙されながら生きている。廊下に金が落ちているだけで、主人公はそれを何かのテストだと勘繰らざるを得ず、裏を読んで勘繰った姿勢が評価されて二重の国の住人として認められるような世界である。主人公の名前さえ「梨花さん」「春さん」とが併用される。 いわば「二重の国のアリス」とでもいった小説である。素人が玄人の世界に慣れるまでのスリル、生活の中でのサスペンスが山盛りで、少し休ませてくれと言いたくなるくらい絶え間なく続く。年末年始でちょっと一息つくものの、そのうちに芸者置屋の税金未払い問題や訴訟問題が差し迫ってきて、クライマックスへとなだれ込む。 流れる (新潮文庫)