冒険アクション大作『レッド・メタル作戦発動』(マーク・グリーニー&H・リプリー・ローリングス四世、伏見威蕃訳)刊行を記念し、1970~80年代の冒険・スパイ小説ブームについて作家・書評家・翻訳家が語る連続エッセイ企画を行います。 第6回は作家・月村了衛さんです。 *** 機会のあるごとにこれまで何度も述べてきたことだが、「冒険小説」という呼称が通用しなくなってすでに久しい。定義さえ共有されていないのに、冒険小説なるものの復権をいくら訴えても読者の胸には響かない。 それが現在の私の偽らざる実感である。 時代も読者も変化する。思えば当然のことだった。小説の読み方を知らない者は、必然的に冒険小説も読めない。そしてそういう者を読者とは言わない。 それでいい。構わない。定義など知らずとも、面白い小説を読んで、面白いと感ずる者は常にいる。我々はそうした人達――つまり読者だ――に向けて小説を書けばいい。