昨今は、どうやら「恐怖ブーム」であるらしい。 夏ともなれば、本屋にはその手の文庫本が立ち並び、一角にコーナーを設けるほどだ。近くのコンビニエンスストアでも、この時期、必ずその手の本の4~5冊は見つけることができる。 その手の本がめっぽう好きな私も、しかし、最近はいささか食傷気味なのである。というのも、読む本読む本、どこかで読んだような怪談、因果関係がしっかりと描かれる心霊体験、起承転結が出来過ぎの怪奇実話……、それでも読んでみて怖いのならばまだいいが、怖くなかった日には金と時間をドブに投げ捨てた気分になってくる。 どうしても粗製濫造の感を禁じ得ないのだ。 だが実は、このことには私にも責任の一端がある。 私はある時体験した「恐怖」を、未だ乗り越えられずにいる。そして、現在までその「恐怖」を超える体験はおろか、怖い本やホラー映画もお目にかかったことがない。 つまり何を読んだとしても、また観たと