「いらっしゃったのはどなたですか」 惟光《これみつ》は自分の名を告げてから、 「侍従さんという方にちょっとお目にかかりたいのですが」 と言った。 「その人はよそへ行きました。 けれども侍従の仲間の者がおります」 と言う声は、昔よりもずっと老人じみてきてはいるが、 聞き覚えのある声であった。 家の中の人は惟光が何であったかを忘れていた。 狩衣《かりぎぬ》姿の男がそっとはいって来て、 柔らかな調子でものを言うのであったから、 あるいは狐か何かではないかと思ったが、 惟光が近づいて行って、 「確かなことをお聞かせくださいませんか。 こちら様が昔のままでおいでになるかどうかお聞かせください。 私の主人のほうでは変心も何もしておいでにならない御様子です。 今晩も門をお通りになって、 訪ねてみたく思召すふうで車を止めておいでになります。 どうお返辞をすればいいでしょう、 ありのままのお話を私には御遠慮