明けて、ことしは元亨《げんこう》二年だった。 ただしく過去をかぞえれば、武家幕府の創始者、 頼朝の没後から百二十二年目にあたる初春《はる》である。 又太郎は一室で、清楚な狩衣《かりぎぬ》に着かえ、 烏帽子も新しくして、若水を汲むべく、 庭の井筒《いづつ》へ降り立っていた。 彼の伯父なる人とは、六波羅評定衆の一員、 上杉|兵庫頭《ひょうごのかみ》憲房《のりふさ》である。 ここはその邸内だったのはいうまでもない。 「アア都は早いな」 井筒のつるべへ手をかけながら、 又太郎はゆうべの酔の気《け》もない面《おもて》を、 梅の梢《こずえ》に仰向けた。 「——国元のわが家の梅は、まだ雪深い中だろうに。 ……右馬介、ここのはもうチラホラ咲いているの」 「お国元のご両親にも、今朝は旅のお子のために、 朝日へ向って、ご祈念でございましょうず」 又太郎に、返辞はなかった。 彼も若水の第一をささげて、 まず東方