失ったのがおカネであれば、「自分の不手際でもらえる遺産が減った」とあきらめもつく。だが、自宅はそうではない。愛着ある「終の棲家」を、あっという間に奪われる、その一部始終を見ていこう。 知らない男が訪ねてきて… 「山口さんはいますか?山口さん?」 スーツ姿の男が何度もインターホンを鳴らし、人目もはばからずに大声で自分の名前を叫んでいる。この男はつい2日前にも、さらにその3日前も自宅を訪ねてきた。 関東近郊に住む山口弘子さん(75歳・仮名)がしぶしぶドアを開けて招き入れると、男は食卓に書類を広げ始めた。 「先日も申し上げましたがお宅の所有権の2分の1は、弊社が取得しております。残り2分の1をお売りいただけない場合は最悪、裁判所に共有物分割請求訴訟を提訴させていただきます」 男は早口でまくしたてる。何を言われているのかほとんど分からないが、「訴訟」という響きに、山口さんの背筋は凍った。男はこう続