「突然の連絡ですが,借金の相談とか宗教の勧誘ではありません」。 もう5年ほど会っていない先輩から,このようなメールを受け取ったのは2017年6月の頭のことだった。僕は大学で物理学の研究をしている。メールを送ってきたのは学生時代に履修していた政治学のゼミの先輩で,その後,東映に勤めていると聞いていた。 状況がよくわからないまま,とりあえず東映本社を訪ねた。そこで聞かされたのは,同社が制作しているテレビ番組『仮面ライダービルド』の主人公が物理学者なので,僕に番組のアドバイザーをしてもらいたいという話だった。具体的には,主人公が新たな武器の開発をする際に黒板に書く数式や,番組の中で効果として流すコンピューターグラフィックスの数式を書いてほしいという。 (中略) 最初の依頼は「オープニングで黒板が映るのですが,直後にライダーがバイクで走っているシーンがあるので,黒板に書くための車輪の運動っぽい式を