2015年、春のよく晴れた日。千春は子ども時代を過ごしたひばりが丘団地を目指していた。「でもね、ひばりが丘団地に住んでいたっていうわけじゃないの。団地にはおばあちゃんの家があって、小学校の友達もたくさん住んでいて……」夫の和哉に当時のことを説明しているうちに、鮮明に記憶が蘇ってくる。 放課後、家にランドセルを放り投げて、毎日ひばりが丘団地に遊びにいったこと。夏休みには友達と一緒におばあちゃんの家でスイカを食べたこと……。思春期で親が疎ましく思ったときでも、大好きなおばあちゃんや友達がいる団地は、千春にとっていつでも心のよりどころだった。 進学でひばりが丘を離れて15年。胸に抱いた長男の光にとっては、はじめてのひばりが丘だ。「ママも、こんな小さなときからお父さんとお母さんに連れられて、ひばりが丘団地に遊びにきてたんだよ」と光の頬を撫でると、和哉が笑った。「千春のお父さんが生まれたのもひば