新宿駅前で男性が焼身自殺を図った。全身の熱傷の広さと深さ、それから気道熱傷の有無によって、救命できるかどうかが大きく違ってくるのは一般知識で知っている人も多いだろう。しかし、そこから先、病院でどんな感じになるかはあまり知られていないはずだ。過去にみた症例を参考にしてお教えしよう。 ある日の昼過ぎ、焼身自殺を図った人が運ばれてくるという報せが入ってきた。40代の男性で、先祖代々の墓の前で灯油かガソリンをかぶって焼身自殺を図ったらしい。見つけた人がすぐに通報したようだ。第一報を受けた救急医は、ボソリとこう呟いた。 「うーん、むずかしいだろうな……」 救急車の到着を待つ間に、私たちは白衣を脱いで長靴にはきかえ、魚屋のようなエプロンを身につけた。到着した救急車から、ガソリンと肉の焼けるにおいをプンプンさせた黒焦げの男性が運び出された。全身が赤黒く焼けた男性は、顔面もかなり燃えており、頭には髪が少し