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ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (3)

  • 彼女がいちばんきれいだったころ - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。それから三年ばかり、久しぶりの連絡が増えている。そうして「実はあのころ」という話を、ぽつぽつと聞く。実はあのころ、子どもが不登校になってね。いいえ、中学校に上がったらけろっとしちゃって。実はあのころ、わたしガンになってね。いいえ、もうほぼ完治してる、ちょっと手術しただけで、予後がすごくいいタイプのもので、たまに検査しに行くだけで、ほんとうにどうということもない。 全部終わったから、言うんだけど。 疫病の流行からしばらく続いた、いわゆる行動制限中でも「この人たちなら」と思って会う人には、彼女たちはその話をしたのだろう。わたしにとってそういう仲でなかった人たちは、その身に起きたあれこれを黙っていて、今になってぽつぽつ話す。 わたしには年長の女友達がいくらかいて、なかでもわたしに年の近い人が、やはりそのように言うのだった。男と

    彼女がいちばんきれいだったころ - 傘をひらいて、空を
    at_yasu
    at_yasu 2023/02/15
    「きれいだから好きになるのではないなんて、当たり前のことでしょう。好きになったからその美しさを特別に感じるだけのことでしょう。」
  • 町のはずれの森の中の深い洞窟 - 傘をひらいて、空を

    彼おとうさんとうまくいっていないんですって、と彼女は言った。また、と私は訊いた。また、と彼女はこたえた。あなたってそういう人とばかり縁があるみたい、と言うと、彼女は少し思案し、上下左右に順繰りに視線を送って、それから言う。 おかあさんとうまくいっていないとか、おとうさんとしっくりきていないとか、そういう問題はよく聞くけれど、それはわりといろんな人にとって核になりうる問題だから、だから聞くんだと思う、私は、ただ親しくなった男の人から、あっという間に、なんていうか、留保のない情報伝達をされる、そういうパターンができあがっている、彼らの話題の共通性よりは、そのことを考えたほうがいいように思う、そう、男の人だけではなくって、仲良くなった女の人だって、早い段階で深刻な事情を話すよ。 彼女がそう言って私の顔をのぞきこむので、私は息が詰まった。私だって、その種のことを彼女に話した。十年ばかり前、私と彼女

    町のはずれの森の中の深い洞窟 - 傘をひらいて、空を
    at_yasu
    at_yasu 2010/08/07
    私は貴方で貴方は私で。
  • 新しいから傷つける - 傘をひらいて、空を

    友だちの家のPCの動作がおかしいというので見にいった。だいぶ古くて起動に十分もかかる状態だったので、さしあたり彼女が必要としているDVDの再生ができるようにクリーンインストールすることにした。 彼女の仕事用の携帯電話が鳴り、彼女は私にことわって出た。はい、いつもお世話になっております。いえいえ、はい、なるほど、担当がそのようなことを申しましたか。 彼女は五分ほど電話で話しつづけた。ほとんどは相槌だった。いろいろな種類の、さまざまな重さの、一定以上の温度を保った相槌だ。彼女はそのあと、仕事にしてはいささか親しげに短く笑って、いいえ、いいんですよ、と言ってから電話を切った。 私はBIOSを確認し、それを覗いた彼女はなんだか怖そうな画面、とつぶやく。怖くないよ、これはWindowsの下に入っているソフトなんだよと私は説明する。 ディスクがかりかりと音をたてて書きこみをはじめる。私は彼女の出してく

    新しいから傷つける - 傘をひらいて、空を
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