韓国で共感・反感の嵐を巻き起こした後、日本では翻訳小説としては異例の16万部超えのベストセラーを記録し、韓国小説のブームや、フェミニズム文学ブームの火付け役となった作品、『82年生まれ、キム・ジヨン』。その映画版が日本で封切られ、再び話題となっている。 原作は、ときどき他人が憑依するが本人には自覚がない、という精神病を患った30代のジヨンを診る男性精神科医のカルテの形で、彼女が生まれてから2歳児を育てる現在まで、人生の折々で受けてきた女性差別を描く。 映画では、夫のチョン・デヒョンが妻を心配し、女性の精神科医を訪ねる。そして、物語の中心は、専業主婦で子育てするジヨンの現在。絶望的な結末に至る原作とは、展開も変わっていく。特に前半、妻を心配する夫の存在感が原作より強く、夫婦の物語としても読める。そこで本稿では、ジヨンとデヒョン夫婦を追い詰めた韓国の社会状況を女性側だけでなく、男性側の視点から