あれは忘れもしない昭和の頃、 僕らはマクセルのカセットテープに一生懸命マイ・ベストを作ったりしていた。 ジャンルなんて関係なかった。ただ自分が好きな音楽を好きな順番で入れた。 それをそれこそ文字通り擦り切れるまで聞いたんだ。 ある日、クラスの女の子とたまたま帰り道が一緒になった。 彼女はどちらかというとクラスでは地味な存在で、 休み時間はいつも難しそうな本ばかり読んでいた。 何を話せばいいのかよくわからなかった僕は、 おもむろにウォークマンの中からカセットテープを取り出し、 「もしよかったら聞いてみてよ」と伝えた。 彼女は静かに頷き、それじゃあと帰って行った。 次の日、休み時間にこっそり弁当を食べていたら、 背中をトントン叩かれた。 「やべぇ、早弁が見つかった」 と思いながら振り返ると、昨日の彼女だった。 「3曲目に入ってたフリッパーズギター、私結構好きかも」 そう、僕は、突然、恋をした。