濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」は、原作とされる村上春樹の短編小説「ドライブ・マイ・カー」を超えて、大変に素晴らしい作品に仕上がっている。 その証拠は、約3時間の上映時間の間ほとんど退屈することなく、一気に見ていられること。それほど明確なストーリーがないにもかかわらず、映像と音の世界に熱中していられることは、映画作品として優れていることを示している。 ストーリーに関して言えば、村上春樹の作品の中でどちらかと言えば凡庸な短編小説「ドライブ・マイ・カー」を骨格としながら、「シェーラザード」と「木野」という別の短編小説からいくつかの要素を取りだし、俳優兼演出家である家福悠介(西島秀俊)を中心にして展開する。 一方には、家福(かふく)の私生活が置かれる。 その中で、妻である音(おと:霧島れいか)が俳優の高槻耕史(岡田将生)と浮気している現場を目撃しながら、幸福を演じようとした家福の心の葛藤に