●「大事なことは言葉では言えない」という言葉を、ただ「言葉」としてだけみるならば、バカみたいに安直で下らない言葉だと言える。しかし、実際に、大事なことがまったく言葉では伝わらないという場面を経験した者にとっては、その下らない言葉が、言葉としての下らなさを超えてリアルな触感を持つ。言葉で何かを言おうとする時に、「大事なことは言葉では言えない」という言葉のリアルな感触を「言葉の外」の経験として持たないとしたら、その言葉は結局言葉の内側だけのことでしかなくなり、言葉で何かを言うことの切実なリアルさをもつことはないだろう。「大事なことは言葉では言えない」という言葉の下らなさとは、実際に伝わらなかった個々の場面の固有な、それぞれに異なった質をまったく表現できてないからであり、それを一般的な「ことわざ」や「キーワード」のようにしてしまっているからであるのだが、しかし同時に、そうであったとしても、人は繰