今年5月、活動拠点のロンドンから一時帰国した作曲家藤倉大(32)は、ラッシュ時の東京駅にいた。山手線と京浜東北線が同じ方向に走る5、6番線。 出発を知らせる電子音が重なると、騒々しい不協和音が通勤客を包み込んだ。 「不快な騒音そのもの。頭の中にこびりついてしまう」 日本人作曲家の管弦楽作品の優秀作に贈られる尾高賞を今年受賞し、世界各地の音楽祭やオーケストラから作曲の依頼が相次ぐ。そんな若手作曲家のトップランナーが東京駅に来たのは、欧州の鉄道にはないホームの騒音を音楽的に解決する方法を探ってみたかったからだ。 藤倉の「解決策」は、こうだ。まず、どんなタイミングで重なっても心地よい音の組み合わせを考える。その限られた音だけで音楽を作れば、騒音にはならない。 電子音ではなくホームごとに楽器を変えて生の音を使えば、視覚障害の人が聞き分けることも容易になるはずだ……。 藤倉はいう。ホームのような偶発