本書は、2018年ノーベル平和賞を受賞した活動家、ナディア・ムラドさんの自伝である。 自伝と一口に言っても、内容には穏やかさはかけらもない。イスラム国(ISIS)の勃興と、ヤズィーディー教というクルド人地域で篤く信仰される少数派の宗教、母や兄弟など7人の家族を含め少なくとも6700人が1日のうちに殺害され、そして当時21歳のナディアさんは性的暴行を受け、逃避行のすえ保護される――事実の一つひとつが重く、苦しく、切ない。 日本人には馴染みのない、イラク北部のクルド人少数派であるヤズィーディー教。その教徒が肩を寄せて穏やかに暮らしてきたコーチョという小さな村に、イスラム教スンニ派の過激組織ISが襲撃するところから、この自伝は始まる。 伝染する恐怖、絶望的な現実 彼女や家族の人生を大きく変えるその凄惨な大虐殺と、妙齢の女性に対する人身売買の現実を淡々と語っていく。ISにより有無を言わさずシリアに