『市に虎声あらん』 フィリップ・K・ディック ☆☆ 唐突に出版された、フィリップ・K・ディック幻の処女作。SFではなく普通小説である。ページ数も多く、みっちり書き込まれていて、当時まだ25歳だったディックの力のこもり具合が分かる。翻訳者の阿部重夫と山形浩生があとがきで本書をかなり褒めているので、つい期待してしまったが、やはり満足な出来ではなかった。まあ、それはそうだろうな。ボツになって机の中に眠っていた幻の処女作が傑作だったなんてうまい話はそうそうない。 舞台はサンフランシスコ、主人公はTV店に勤務する若者ハドリー。彼と店主のファーガスン、妻エレン、姉夫婦、友人たちとのやりとり、そして唐突に出現して不倫相手となるマーシャや、新興宗教の教祖である黒人のベックハイムとの邂逅などがプロットの要になっている。舞台が西海岸であること、TV店従業員という職業、夫婦同士のつきあいや不倫話など、後に彼
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