母性に関するbeltorchiccaのブックマーク (7)

  • 堀辰雄 花を持てる女

  • 芥川龍之介 点鬼簿

    僕の母は狂人だった。僕は一度も僕の母に母らしい親しみを感じたことはない。僕の母は髪を櫛巻(くしま)きにし、いつも芝の実家にたった一人坐(すわ)りながら、長煙管(ながぎせる)ですぱすぱ煙草(たばこ)を吸っている。顔も小さければ体も小さい。その又顔はどう云う訳か、少しも生気のない灰色をしている。僕はいつか西廂記(せいそうき)を読み、土口気泥臭味の語に出合った時に忽(たちま)ち僕の母の顔を、――痩(や)せ細った横顔を思い出した。 こう云う僕は僕の母に全然面倒を見て貰ったことはない。何でも一度僕の養母とわざわざ二階へ挨拶(あいさつ)に行ったら、いきなり頭を長煙管で打たれたことを覚えている。しかし大体僕の母は如何にももの静かな狂人だった。僕や僕の姉などに画を描いてくれと迫られると、四つ折の半紙に画を描いてくれる。画は墨を使うばかりではない。僕の姉の水絵の具を行楽の子女の衣服だの草木の花だのになすって

  • 方子と末起 (小栗 虫太郎)

    1901年3月14日、東京神田生まれ。木々高太郎らとともに昭和初期の探偵小説ブームを作る。代表作は『黒死館殺人事件』『完全犯罪』。1946年2月10日、脳溢血のため45歳の若さで死去。 「小栗虫太郎」

    方子と末起 (小栗 虫太郎)
  • 萩原朔太郎 家庭の痛恨

    西洋の風習では、そのが良人と共に社交に出で、多くの異性と舞踏をし、宴会の席上で酒をすすめ、ピアノを弾き、唄をうたひ、文学を論じ、時に艶めかしき媚態を示して、人々の注意と愛情を惹かうと努める。然るに東洋の風習は、これと全くちがつて居る。我々の社会にあつては、すべてさうした女の仕事が、芸者と称する特殊な職業婦人に一任されてる。芸者等は、全くその目的からのみ養成され、我々の宴会や社会に於ける、一切の事務を受けもつてゐる。実に我々の日人等は、芸者なしに一の社交や宴会をもなし得ないのだ。なぜなら我々のたちは、深くその家庭に押し込められ、純粋に母性としての訓育を受けてることから、全く社交上の才能を欠いでゐるから。つまり言へば吾々は、西洋人がその一人の女に課する二つの要求――家庭に於ける母性と社交に於ける娼婦性――とを、初めから厳重に分離されて、家庭にはをおき、社交界には芸者をおき、夫々別々の分

  • 宮本百合子 結婚論の性格

    この頃は、結婚の問題がめだっている。この一年ばかりのうちに、私たち女性の前には早婚奨励、子宝奨励、健全結婚への資金貸与というような現象がかさなりあってあらわれてきている。そして、どこか性急な調子をもったその現象は、傍にはっきり、最後の武器は人口であるという見出しを示すようにもなって来ている。 女性のうちの母性は、天然のめざめよりあるいはなお早くこの声々に覚醒させられているようなけはいがある。若い女性たちの関心も結婚という課題にじかに向かっていて、婦人公論の柳田国男氏の女性生活史への質問も、五月号では「家と結婚」をテーマとしている。 若い女性の結婚に対する気持が、いくらかずつ変化して来ていると感じたのは、すでにきのう今日のことではない。去年、ある婦人雑誌が、専門学校を出て職業をもっている女性たちを集めて座談会をした。そのときやはり結婚問題が出た。そしたら、出席していた若い女性の一人が、自分に

  • 倉田百三 婦人と職業

  • 細井和喜蔵 モルモット

    一 永いあいだの失業から生活難に追われて焦燥し、のヒステリーはひどくこうじて来た。彼女はちょっとした事にでも腹を立てて怒る、泣く、そしてしまいのはてには物をぶち投げて破壊するのであった。そうかと思うとまた、ありもしない自分の着物をびりびりっと引き裂いて了う。 彼はそんな風に荒んだの心に、幾分のやわらか味を与えるであろうと思って、モルモットの仔を一つがい買って来た。牝の方は真っ白で眼が赤く、兎の仔のようである。そして牡の方は白と黒と茶褐色の三毛で眼が黒かった。 「おい、いいものを買って来たよ。」 「まあ! 可愛い動物だわねえ。それ、何をべるの?」 「草を、一番よろこんでべるって話しだ。」 「眼が、まるでルビーみたいねえ、何て綺麗に光るんだろう……早く草を取って来ておやりなさいよ。」 モルモット屋の小舎の中に、数千頭かためて飼われて、多くの友達をもっていた動物は、二頭だけ急にそこから引

  • 1