センディル・ ムッライナタンとエルダー・ シャフィール『いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学』はビジネス書ではない。日本語タイトルからは、「todoリストはこう使え」とか「会議は無駄防止のため、立ってせよ」といったノウハウが書かれた本に思える。実際、私はこの本を「ビジネス書・時間術」のコーナでみつけた。「いつも「時間がない」あなた」が、時間の欠乏を解決しようと、この本を読んでも即効性の解決方法を得ることはできないだろう。 "SCARCITY Why Having Too Little Means So Much"という原題のこの本が主に取り上げるのは、時間の欠乏よりむしろ金銭の欠乏である貧困についてなのだ。 筆者がキーワードとして用いるのが、「処理能力」だ。 処理能力は計算する能力、注意を払う能力、賢明な決断をする能力、計画を守る能力、そして誘惑に抵抗する能力を示す。処理能力は