例えば、クリスマス・イブの夜に出産に臨む夫婦の話。 男の子は祈る。灯りの落ちた暗い病棟の廊下のソファで、汗ばむ両掌を合わせながらひたすらに祈り続ける。 簡単な手術ではない、とは医者にさんざん聞かされた。出産がイブに重なったのも偶然ではない、これ以上遅くなると命に関わるとそう言われたからだ。もしもの時の覚悟だけはしておくように、とも釘を刺された。でもそんな覚悟ができるほど男の子の心は強くなかった。最悪の事態なんてもの、想像するだけで胸が張り裂けそうになる。だから男の子は祈る。女の子の無事を。きっともうすぐ産まれてくるはずの子供の無事を。ただ目を閉じて祈り続ける。 ──欲しいものなんでも一つだけ、言ってごらん? クリスマスの夜、サンタさんが、プレゼントしてくれるかもしれないよ。 男の子が子供の頃、年末が近づくと母親はいつも笑顔でそう言ってきた。でも男の子は一度として自分がそのとき本当に欲し