玉水物語 2巻 | 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ ※この記事では、京都大学貴重資料デジタルアーカイブの画像を、適宜改変して使用しています。 【原文】 扨《さて》、御内参りに紛れに車に乗る由にて、何方《いづち》ともなく失せにけり。 殿にハ「内に御供なり」と思す。 内にハ「心地悪しと常に言ひしかば、里に留まりぬらん」と人々は思ふ。 姫君も歎かしく「如何《いか》に成りつるぞ」と心許のふ思し召し、二・三日過ぎて、何方へも無し由聞こへければ、親の方、爰《ここ》かしこ尋ねさせ給へども、行方も知らず。 五日・十日の程は「さり共、聞ゝ出《いで》ん。余所《よそ》よりや帰り来ん」と待ち給へども、見えねば、「何処《いづく》に失せぬるぞ。人の隠したるか」と覚し給ひければ、御悦《およろこ》びに御心の内の御歎きぞ増させける。 諸卿の女房達、打ち託《かこ》ち歎き合ひけり。 何事につけても、「此の人の有らましかバ」