オペラの新演出は、幕が上がるまで、どのような舞台になるのかまったくわかりません。演出家によって、時代や場所の設定が大きく変えられたり、社会的に大きく訴えかけるメッセージ性が込められたり・・・。わくわくしながら想像するときに、よりどころとなるものの一つに、演出家の思考を見つめることがあるでしょう。 《タンホイザー》の演出を手がけるロメオ・カステルッチは、演劇界ではすでに名を知られています。演劇研究者・ジャーナリストとして、カステルッチ氏に直接会った経験をもつ岩城京子さんに、演出家ロメオ・カステルッチの創作についての考察を寄せていただきました。 思考の袋小路の先にある、ロメオ・カステルッチの創造世界 あらゆる芸術表現は「アポリア」から生まれる。と、イタリア人演出家ロメオ・カステルッチは明言している。*1)アポリアとはつまり「行き止まり」のこと。言い換えれば、あるひとつの問いに対し、完全に矛盾す