北野 輝(きたの てる) ー東京国立近代美術館「MOMATコレクション特集:藤田嗣治、全所蔵作品展示」にちなみー 「この秋、藤田の魅力/魔力と『MOMATコレクション』の底力をどうぞ感じて下さい」 これは昨秋、「戦争画」14点を含む藤田嗣治の全所蔵作品25点の展示に踏み切った東京国立近代美術館による挨拶文の結びである。同館には1970年にアメリカから「無期限貸与」の名で返還されたアジア・太平洋戦争中に描かれた「戦争画」(当時「作戦記録画」と呼ばれた)153点が所蔵されており、今回はじめてその中の全藤田作品が公開されたのである。 しかし私はこの藤田「戦争画」の全面公開を誇らしげに謳う挨拶文に収まりの悪い違和感を覚えた。家的プロジェクトと美術家のかかわり、「表現の自由」と美術/美術家の「自律/自立」と美術家の「主権者」としての「責任」、広くは現実と美術家の関係、美術家と市民・鑑賞者の関係、等々