テレビの2時間サスペンスドラマの結末の定番は、海辺の断崖(だんがい)上での事件の真相解明だ。1961年の松本清張原作、野村芳太郎監督の映画「ゼロの焦点」で能登の断崖が決着の場所となったのが、ドラマ作家に鮮烈な記憶として残っているらしい▲サスペンスとは中ぶらりんの不安や緊張が入り交じる精神状態だ。がけの上はまさに場所そのものがサスペンスに満ち、ドラマのクライマックスにふさわしいと思われているのだろう。しかし、現実は2時間で解決のつくドラマとは違った▲「ロス疑惑」と呼ばれた当時の騒ぎを知る人の多くは、米ロサンゼルス市警に逮捕された三浦和義元社長の自殺に息をのんだ。週刊誌やワイドショーが描いたサスペンスドラマの登場人物のような元社長のイメージがまだ残っていたのだろう▲ロス銃撃事件から27年、その間に日本では殺人罪について元社長の無罪が確定している。法的・社会的にはすでに落着し、宙づりの緊張が解か