章ごとに語り口を変えた。「文章がちょっとずつ変わっていくのが楽しかった。言葉を使うのがやっぱり好きなんですね」と川上弘美さん (寺河内美奈撮影) はるか遠い世界を描いているのに、「今」を切実に考えさせる小説がある。川上弘美さん(58)の新刊『大きな鳥にさらわれないよう』(講談社)もそんな長編だ。持ち前の平明な文章で紡がれる絶滅の危機にひんした人類の未来史には、人間社会への静かな警鐘と一筋の希望が響き合っている。(海老沢類) ◇ 「やっぱり東日本大震災はすごく大きくて」。なぜ今、未来の物語? 率直にそう問いかけると、川上さんは5年前の3月11日の記憶をたぐり寄せた。 「あのとき人類というのは運が良くていま繁栄しているんだなあ、とすごく思ったんです。いくつかのカタストロフ(破局)やインパクトがあれば生物としての種は減ってしまう。それは明日にもやってくるかもしれないんですよね」 人間の矛盾 牧歌
教師時代から、日々、失敗を認めるところから出発してきたという。「『私ってダメだな』と言いながらも、お酒を飲んで一晩寝ると翌朝は元気になっています。飲んだら仕事の話はしません」=高橋美帆撮影 人類滅亡の危機に立たされたとき、人は何を思い、どう行動するのか。 幻想的な世界を得意とする作家の川上弘美さん(58)が、長編ファンタジー『大きな鳥にさらわれないよう』(講談社)を刊行した。描かれている世界は、“今”を生きる人々に向けた希望の光をたたえている。 ネズミ、イルカ、カンガルー、そして人間。物語は、あらゆる動物から採取した細胞で新たに人が作られていくという衝撃的な設定で幕を開ける。ふらりと訪れる「男」を受け入れて子をなす女性集団、植物のように水と光で栄養を合成して生きる集団、クローン技術と人工知能を寄生させる技術を組み合わせて誕生した者たち――。 極限まで人口を減らした遠い未来の人類は、異なる集
小学校の転校初日、同姓の少女・汀と知り合った田中水面。汀は、自分は前世の記憶があると水面に告げる。あるとき、水面は自分の住む団地にかつて殺された少女がいると耳にする。少女の名は、田中渚だった――〈aqua〉。さまざまな年代の女性たちの「性」と「生」を描いた5篇を束ねた瑞々しい作品集。 新潮社 1470円(税込) 川上弘美さんの最新作『なめらかで熱くて甘苦しくて』は「性」をテーマにした小説集だ。 「これまで、男女のことを小説にする時には、どちらかというと気持ちの部分を中心に描いてきました。今回は、より生理に近い『性欲』というものについて書きたかったんです。まだ作家になる以前に、ある年上の女性が『結婚って結局は性欲なんだよね』と口にしたのを聞いて、生物としての美しいあり方を言い当てたその人を『師匠だ』と思った。それと同時に、自分にとって性欲とは何だろうと考えるようになりました」 早熟な友人に刺
「性欲について書いてみたかった」。川上弘美の最新作『なめらかで熱くて甘苦しくて』(新潮社)は、性欲がテーマだが、そこに納まらず、生きていくことそのものへとつながる五つの物語だ。 タイトルの文言は本文中にも出てくるが、「何かに突き動かされて生きる時があって、何かとは体の中にある『なめらかで熱くて甘苦しいもの』のような気がして」と話す。 一編一編のタイトルは4大元素の水、土、風、火から取られている。「aqua」は不安定な思春期の少女、「terra」は女子大学生、「aer」は出産後の母親、「ignis」は30年間男と連れ添った女が主人公。最終話は世界を意味する「mundus」。「子供」と呼ばれる人物とその一族の物語だ。 最初の1編は2007年に書き、2年かけて3編を書いた。その後、新聞連載をはさみ、最終話を書きあげたのは昨年だ。「いろんな時期をふり返り、自分の体を通ってきたものを、体の中を見るよ
「aqua(水)」「aer(空気)」など世界を構成する4大元素の名がつけられた5編を束ねる、なまめかしいタイトル。50代を迎えた作家は、今作で「性」の様々な様相を描いた。 きっかけは、作家になる前に年長の友人から聞いた、「恋愛って要するに性欲なのよね」という言葉だった。「なるほどそうかもしれないって。でも、考えてみると、恋愛する前も恋愛してからも、頭だけで考えていては分からない、何か体の中から自分を動かすものがあるな、と。もちろん性欲という一つの言葉には収まりきらないものだけれど、いつか書いてみたいと思ったんです」 性に関心を持つ少女時代。ただ体を触れ合わせたいと欲する20代。心も体も変わる妊娠と出産。そして、人生の折々に現れる「それ」――。自身にとって「初めてかつ唯一」の出産小説から、<昔、男がいた>と伊勢物語をモチーフに男女の30年間を描いた流離譚(たん)まで、「セックスと性欲」をテー
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