北海道の野付半島で、秋の夕方、一頭の若い鹿に出会った。すすきの生える湿地で丈の低い植物をしきりに食べている。間近から目と目を見交わしてもすぐには逃げない。やがてのんびりと茂みに姿を消していった。帰り道、暗闇の国道244号線で、まちがいなく車との衝突で死んだ大きな牝鹿(めじか)を見た。外傷はほとんどないが口から血を流している。野生動物との出会いはつねに強い感情を引き起こす。生きた鹿、死んだ鹿。そして出会いがあるたび、動物の命について考える。 この地上では植物が光合成によって太陽エネルギーを変換し動物たちに与えてくれる。動物たちは互いを食い食われながら生命の流動に参加する。人は動物の一員でありながら他の動物たちから身を引き離すことで人となった。他の動物たちが身を捧(ささ)げてくれたことで人となった。 本書は10篇(ぺん)の人類学的論考を集めている。人と動物、動物と人。この「と」に、「に」「の」