宮下 授賞式で書店員さんたちが本当に笑顔で「おめでとうございます」と言ってくださったときにようやく「ああよかった」と思いました。やっと嬉しいという気持ちが出てきた感じでしたね。でも電車の中吊りで広告を見た時には、「ああ、すみません!」という気持ちになって。もう私とは別に歩き出しているんだな、頑張って行っておいで、という感じです。遠くまで行って、みんなに可愛がってもらえたら嬉しいです。 瀧井朝世 ――『羊と鋼の森』は高校生の時に学校ではじめてピアノの調律を見た外村少年が、ピアノを弾いたこともなかったのにこの職業を目指し、少しずつ歩んでいく姿が描かれます。宮下さんご自身も、小さな頃からピアノを弾いていたんだそうですね。 宮下 そうです。私が3歳の時に買ってもらったピアノがまだうちにあるんです。もう40何年も経っているので調律師の人に「まだ大丈夫ですか」と訊いたら、「大丈夫です。このピアノは中に