(新潮社・1728円) ただの人でいられない語り手たち 恐ろしい小説が書かれた。近未来小説というのは、だいたい数十年から百年後ぐらいに時代が設定されているが、本作は、二年後に世界スポーツ祭典が東京で開かれる(東京オリンピック)という記述からして、ごく近い二〇一八年あたりの日本を舞台にしているようだ。たった二年後にこんなことが起きるか?という疑問はまったく感じなかった。むしろ、もう起きつつある、起きているのだという現実感がそくそくとして迫ってくる。 主役たちは、東京と神奈川の間を流れる「弧間(こま)川」の河川敷に住みついた家なき人々だ。近くの町にある日、「野良ビト(ホームレス)に缶を与えないでください」という、「野良猫に餌を与えないでください」と同じ調子の看板が立てられる。河川敷住人の多くはアルミ缶拾いをして生計を立てており、その缶をやるな、というのである。一方、富裕層はアメリカ式の「ゲーテ
(三省堂・3240円) 森閑としたことばの多彩な群落 精読すれば、森閑としたことばの光景に魅せられ、引きこまれる。それが漢和辞典だ。 戸川芳郎監修『全訳漢辞海第四版』(佐藤進、濱口富士雄編)は二〇〇〇年の初版以降、評価の高い小型漢和辞典の六年ぶりの新版。親字一万二五〇〇。熟語八万。この第四版では和訓、地名を大幅に補充し、新たに日葡(にっぽ)辞書でのよみを加えた。たとえば平家物語、徒然草では上洛をショウラクとよむが、日葡辞書以外に記載がないのだ。以下は、初版以来の特色。訓点を除外し、括弧も最小限で引用する。 ひとつは漢文用例すべてについて日本語訳と書き下(くだ)し文を付けたこと(漢和では初めて)。有朋自遠方来(論語)には「ともありえんぽうよりきたル」「ともノえんぽうよりきたルあり」の二つを示す(カタカナは送り仮名の部分)。書き下し文には一定の決まりはないので、二通りの格調を味わえることに。
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く