◆著者・中村江里(なかむら・えり)さん (吉川弘文館・4968円) 闇に埋もれた「傷」掘り起こす 第二次世界大戦では、推計で日本人310万人が死んだ。命は取り留めたものの心に傷を負った人も相当数に上るはずだ。しかしその傷、病のありように光を当てる体系的な研究はなかった。本書は、歴史学研究に新たな画期をしるす労作だ。 最初に兵士の心の傷に関心を持ったのは高校生のころ。リポートでベトナム戦争について調べた。「そのとき見た写真集で、(米軍の)兵士の側も心に傷をのこすんだなあ」と印象に残った。折しも従軍慰安婦など「戦争が人間に及ぼす長期的な影響にぼんやり関心を持っていました」。上智大学に進み西洋史を学ぶ中、アウシュビッツの生還者が抱えていた傷を知った。阪神淡路大震災の影響もあって、日本でもトラウマに関する研究に注目…