けもの道の歩き方―猟師が見つめる日本の自然 [著]千松信也 猟師ほど多方面の技能を要する仕事はない。猟師は罠(わな)や銃を扱える技術者であり、登山に長(た)け、里山の管理をする林業の知識も備え、仕留めた獲物を絶命させ、解体するブッチャーでもあり、動物の生態、特性を知り尽くし、環境、気象の変化にも敏感な自然科学者でなければならない。猟師に較(くら)べれば、産業、情報社会のどんな職業も単純労働に分類されるほどだ。効率化や分業化が徹底された分、個々の人間が潜在的に持っていた能力は活用されることなく、忘れられていったので、明日から猟師になろうと思っても、熊に襲われるのが関の山である。狩猟で暮らした先祖への回帰には容易ならぬリハビリテーションが必要だ。筆者は猟師修業を通じて、それを実践し、学んだことを本書に記しているが、狩猟に対する一般的な思い込みを改める実用的な啓蒙(けいもう)書になっている。樹木